ぎぎぶろ

ざれごとです

僕はヒーローにはなれない

 

 

女子にキャーキャー言われたい

男の性である。

 

当然だが、キャーキャー言われる人間なんてほんのひと握りである。

女性からは悲鳴でしか言われた試しがない。

 

ちなみに男からは「ウォォオオオオオ」と獣のような唸り声をあげられたことはある。

 

 

そのぐらい限られた人間にしか与えられない称号なのだ。こんなブログ読んでいる貴方もどうせ経験はないでしょう。お願いだからないと言ってくれ。

 

 

 

思い返すと学生時代だったら

リレーのアンカー。

最後ごぼう抜きして1位になった試しにゃ、

女子達の目はハートになり、

 

あんなにハチマキが似合う青年はこの世に存在しなくなる。

ストリートファイターリュウかリレーのアンカーかである。

 

 

残念ながら僕はそんな運動神経のいい人間ではなかったのでそれは叶わなかった。

ゴールしたアンカーにすぐに駆け寄って『俺はこいつの友達なんだ』と周りに一軍アピールすることしか出来ない人間であった。

 

 

しかし、人生で1度だけキャーキャーチャンスがあった。

 

 

 

 

 

 

中学校時代の球技大会である。

 

僕の中学の球技大会は

男子がサッカー、女子がバレー(だったと思う)をクラス対抗で行い、優勝を決めるという形式で行われる。

 

 

 

あいにく中学にはサッカー部がなかったので、球技大会でよくある『当該運動部が手を抜きながらちょっと魅せプレイをする』というクソイベントも発生せず、ある程度実力が拮抗しやすい行事であった。

 

 

基本的に全員参加で

クラスの中でAチーム、Bチーム、Cチームと

3チームくらい作ってそれぞれのクラスと総当りするシステム。

 

 

それだけでなく、最終試合はその中でも、クラス選抜チームを作って戦う。

 

 

つまり言ってしまえば各部活の運動神経がいい人達を集めたオールスター戦である。

 

 

 

田舎の中学なもんで、クラスの人数も多い訳では無いので、たまたま僕がその選抜メンバーに選ばれてしまった。

 

 

バスケ部だったし、球技は割と得意であったが、サッカーだけは苦手だった。

 

なんならあんまりサッカーが好きではなかった。

 

当時は、岡田ジャパンのワールドカップイナズマイレブンのヒットでサッカー人気が非常に高かったのできっと嫉妬していたのだろう。

 

トリコがあれだけパンチが必殺技だったのに突然「レッグフォーク!」とキックを使いだした時も心底ガッカリしたのを覚えている。しかもめちゃくちゃキックが強い。

 

 

話が逸れてしまったが、選抜メンバーに選ばれたとはいえ

ポジションは当然ディフェンダー

一切攻撃には参加せず、とにかく守りに徹する役目である。

攻めろと言われたところで出来ないのでそれはそれで良かったが。

 

 

 

なんだかんだ当日

我々のクラスの成績が良くて、最後の選抜試合を勝ったら優勝のところまで来てしまった。

 

1日を通して行われるので、既に何試合も行っており、

みんな心なしか小麦色に焼けて、足元は砂だらけ。青春である。

 

優勝決定戦ということもあり、

学年全員がコートを囲む様に集まる。

当然試合前から大盛り上がりである。

イケてる女子達もオーバーサイズの半ズボンで立っている。

当時は腰パンが全盛期である。

 

 

対戦相手も

陸上部やら野球部やら

運動自慢が集結している。

 

 

 

立っているだけで倒れてしまいそうな熱気の中、試合のホイッスルがなり響く。

 

 

相手チームの生徒会長が自陣に攻めてくる。

どうやら彼を止めるのが僕の仕事のようだ。

 

 

バスケのフットワークを生かし、相手をシャットアウト。

 

ハンドボール用のゴールで試合は行われているため、試合は拮抗する。

 

先に一点決めた方が試合に勝つ、

選手も観衆もそう感じていただろう。

 

 

優勝が決まる1戦ということもあり、前半はどちらも攻めあぐみ、0-0のまま後半に突入する。

 

 

 

そんな中

生徒会長がまた攻めてくる。

 

既に学校内で確固たる地位を築いているくせに

こんな所でさらに評価をあげさせてたまるか

 

底辺魂が僕を動かす。生徒会長と体をぶつける。

 

 

バランスを崩す。

 

咄嗟にボールを触る。

 

 

 

 

ん?触る?

 

 

ピー

 

 

 

 

審判が近付き

「ハンド」

 

 

 

 

 

 

やってしまった。

 

この位置は、自陣のいわゆるペナルティエリア内。

ここでハンドをしてしまうと、

 

PKになる。

 

 

優勝決定戦、終盤、PK

 

 

つまり極刑である。

 

 

 

それは絶対に許されない。あれだけ盛り上がっていた観衆が一気に静まり返る。

 

咄嗟に足を庇う振りをする。

バランスを崩されたんだ、押されたんだ、あしをかけられたんだ、

そうアピールするように

 

審判、頼む

何でもしますから

目で訴えかける

 

 

 

審判「いや、ハンドの前に攻撃側のファウルだ」

 

 

 

 

審判は絶対である。

僕はただファウルされただけである。

ついバスケのクセでボールを触ってしまったのではないのである。

 

暑さによる汗なのか、冷や汗なのか、分からない液体を拭って試合は再開となる。

 

 

難を逃れたもののこちらが攻め込まれてるのは事実。

相手はどんどん攻撃に人数を割いていく。

 

また、シュートを打ち込まれる。

自陣のゴールキーパーがキャッチする。

こちらのキーパーは同じ部活で親友のMである。

 

 

このタイミングで僕はあることに気付く。

 

 

 

 

相手の陣地がガラ空きなのである。

攻撃に集中しすぎて守備が疎かになっていたのである。

 

咄嗟に僕はMと目配せをし、相手ゴールに向かって走り出す。

 

試合を通して一回も攻撃に参加していなかった僕が突然走り出したので、相手は完全に意表をつかれている。

 

 

オフサイドも無いルールなのでギンガ独走。

長友もびっくりのオーバーラップである。

 

 

Mがボールを大きく前に蹴り出す。

完璧な軌道である。

 

 

相手陣地には相手ゴールキーパーと僕しかいない。

 

相手のキーパーは普段はハンドボール部のキーパーをやっている。正直決められる自信はない。

 

しかし残り時間、この状況、今決めないでいつ決めるんだ。俺がヒーローになるんだ。

 

作戦はこうだ。

ボールに追いつき、相手の脇を狙い落ち着いて決める。

 

 

 

 

相手キーパーも僕が迫ってきている事に気が付き、かかってこいと言わんばかりにこちらに意識を向けてきた。

 

だが俺は絶対に決める。

 

このチャンスを物にするんだ。

 

Mが蹴り出した完璧なボールは

僕とキーパーの中間でワンバウンド。

 

あとは僕がそれに追い…

 

 

 

 

 

ボイ〜ン

 

 

 

 

 

ワンバウンドしたMのボールは大きく跳ね上がり、キーパーの頭上を越える

 

 

 

 

ファサッ

 

 

 

 

そのままゴールネットを揺らす

 

 

 

 

 

ゴール

 

 

 

 

Mはヒーローになりました。

 

 

 

試合はそのまま1-0で勝利し、見事我々のクラスは優勝となった。

 

 

相手エリアまで走った僕は手持ち無沙汰になってしまったので、

そのままサイドライン沿いに並んで応援しているクラスメイトと、ハイタッチをしながら自陣に戻る。

 

ただのシャトルランである。

 

 

 

未だに思う。

あそこで僕がシュートを決めていたら

人生が変わっていたかもしれない。

 

 

 

ひとつだけ言えるのは

 

次の年の球技大会で、たまたまヘディングシュートでゴールを決めたら周りから笑いが巻き起こった、ということである

 

 

僕はヒーローにはなれない