ぎぎぶろ

ざれごとです

初めてスベった話

 

たしか小5の時

図書委員をしていた。

 

 

図書委員といえば休み時間などに、図書室で本のバーコード読み取って、他の生徒の本の貸し借りを手伝うのがメインの仕事であった。

 

 

 

もう僕の時代ですら、耳をすませばみたいな手書きの貸出カードは無かった。

 

まぁ仮にそのシステムがまだあったとしても、雫が僕のかいけつゾロリの貸出履歴に気づくことは無いだろうが。

 

 

 

図書委員のもうひとつの仕事に、低学年の児童に読み聞かせをするという仕事があった。

 

 

朝は読書をする時間として定められていた。その時間に高学年が読み聞かせをするのだ。

 

 

小5と小1.2なんて年齢差だけで考えたらほぼ、同じ様なものである。

だが、子供の成長速度を舐めてはいけない。

当時はこっちが範馬刃牙なら数学年上のお兄さんは範馬勇次郎に思えた。

そう考えると花山薫はよく勇次郎に挑んだと賞賛を送りたい。

 

 

 

 

 

自分で言うのもあれだけど、試行回数という点では僕は人より面白いことをしようとしているはずである。

 

 

人に面白いと思われることでしか自己肯定感を満たすことの出来ない愚かな人間だからである。

 

「ブログおもしろいです」って言われると結構嬉しかったりする。たまに当たり前だろ馬鹿が、と思ったりもする。

 

 

 

そして、そんな考えを当時11歳の僕は既に持っていた。

 

 

 

 

 

最初はみんなと同じように、ありきたりな絵本を選び、淡々と読み聞かせをし、さっさと教室を後にしていた。

 

逆に言えば、それ以上は求められていないし、やる必要性もなかった。

 

 

しかし、僕はそんな繰り返される日々にひどく飽き飽きしてしまう。

 

どうしたもんか、、次回の読み聞かせの本を探しながら図書室をうろうろしていると、とある1冊の本を見つける

 

 

 

 

f:id:gggunma:20220919212907j:image

 

 

 

 

あらまっ!

という絵本である。

 

 

 

簡単に言うと

おばあちゃんと孫のお話で

孫が色々な悪さやイタズラをする度に、おばあちゃんが「あらまっ!」と驚くというのが繰り返される絵本である。

 

 

この絵本になぜか底知れぬ可能性を当時の僕は感じるのである。すぐに借りる。

 

 

 

そして次の読み聞かせの日。

 

いつものように低学年のクラスにお邪魔し、挨拶をする。

そして、『あらまっ!』を取り出す。

 

シリーズ化されている定番の絵本ではないため、おそらく初めて見るのだろう、教室の中の40人の目が僕の手元に集まる。

 

淡々と読み始める。

 

 

笑いは緊張と緩和の中で発生する。

山が来るまでは、いつものように、いつものように。

 

 

孫が悪さをした、

 

よし、このタイミングだ

 

 

「あらまっ!」

 

おばあちゃんを自身に宿し

突然裏声で大きく驚いたように読み上げる。

 

 

ボーッと聞いていた児童達は一瞬びっくりしたような顔をする。

そして、少しの沈黙の後「ハハハ」と笑い声が聞こえてきた。

 

 

 

手応えあり。

 

 

そこからは

あらまっ!

と発する度に笑いが大きくなる

 

もはや確変状態。超源Rush。

KOCのにゃんこスターである。

 

 

最後のオチのあらまっ!

を発する頃には教室中が爆笑に包まれ、

とても朝の時間とは思えないような空間がそこには生まれていた。

 

 

そしてかつてないほどの盛況を見せ、その日の僕の読み聞かせは終了するのであった。

 

 

その日から、あらまっ!旋風が始まる。

 

 

 

 

1.2年生の中では「あらまっ!」という、どちゃくそ面白い絵本があると噂でもちきりになり

 

 

他のクラスの子にも『あらまっ!』を読んでくださいとお願いされる。

 

読み聞かせした児童とすれ違うと

 

「あ!あらまっ!のお兄さん!!」

 

と指を刺される。

 

 

 

以降の読み聞かせでは

 

あらまっ!の表紙を見せるだけで

 

 

 

うおおおおおお!!

あらまっ!きたぁああああ!

 

と教室中が熱狂の渦に包まれる。

もはや教室ではなくフロアである。

 

 

僕もただ『あらまっ!』を読むだけでは飽き足らず

最初は他の絵本を読み、児童達に

 

(えっ…今日はこれで終わり…?)

 

と思わせたタイミングで

 

 

「今日はみんな、最後までありがとう。そしてこれからもよろしく。聞いて下さい、『あらまっ!』」

 

 

スっ

 

 

うおおおおおおおおおおお!!!

 

 

 

 

もう読み聞かせ会のTAKAである。

 

 

 

 

 

もはや、『あらまっ!』を出すまでもなく何の本を読んでも爆笑。

 

 

ゴムあたまポンたろう、でも

キャベツくん、でも

五味太郎の作品でもある

 

 

 

 

 

俺ってやっぱ面白いんだ

手応えが確かな自信となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして図書委員の任期も残りわずかとなったある日

 

 

 

完全に無敵のお笑いマシーンとなった僕は、

 

いつものように読み聞かせで『あらまっ!』を取り出す

 

 

 

 

 

この1年で何十回も読んできた絵本ということもあり、

 

既に全てのページのセリフを暗記している。

慣れてくるとアレンジやアドリブなんてものも入れたくなる

 

僕は読み聞かせ会の玉置浩二である。

 

 

 

 

あらまっ!

 

 

はい、爆笑

 

 

 

 

あーらまっ!

 

 

 

はい、爆笑

 

 

 

 

最後のオチ

 

 

 

 

あぁぁぁぁんらぁぁぁぁまぁぁぁ〜〜!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーン…

 

 

 

 

 

 

ん?

 

何で静かなの?

 

一緒に読み聞かせする同級生も

「いや…」と言わんばかりの顔をしている。

 

 

最初は何が起こっているか全く分からなかった。

訳の分からないまま読み聞かせを終了し、教室をあとにする。

授業も手につかない。ドッジボールも手につかない。

 

 

 

しばらくして冷静になり、

客観的に状況を整理し1つの結論を導き出す。

 

 

 

 

もしかして、めちゃくちゃスべった…?

 

 

 

 

 

 

齢11にして初めての挫折である。

伸びに伸びきった鼻が見るも無惨に折られてしまった。

 

 

 

 

松本人志もスべる時はスべるし

イチローも三振する。

マーク・ハントもたまにKOされる。

 

 

 

しかし、分かっていても小学生に大スべりの経験は重すぎる。

人間は調子に乗り過ぎては行けない。

盛者必衰である。

 

小学生にして僕は境地にたどり着いたのである。

笑いは謙虚であれ。

 

 

 

 

 

僕は今でも、そこそこスべる。

 

 

 

しかし「スべって何が悪いの?」と、つらっとする。

 

 

 

 

 

実は心の中で泣いている。

 

 

 

枕に顔をうずめて

うわああああああああぁぁぁって言うこともある。

 

 

 

 

 

みんなもスベっていこう。